インタビューしたのは、札幌ボデー工業株式会社 代表取締役の堀田和宏さん。
札幌ボデー工業は、社会課題解決に向けた挑戦的な事業活動が認められ、第1期SDGs先進企業として認証されました。環境への取り組みによって高まる事業拡大の展望、札幌ボデー工業の組織としての温かさ、そして製造業のイメージが与える採用活動の難しさなど多方面から札幌ボデー工業を深堀りしてきました。
「今」取り組むべき “環境配慮型の塗装・乾燥の内製化” への挑戦
札幌ボデー工業は高規格救急車や移動販売車、冷蔵冷凍車などのトラックを製造しています。そのトラックを製造する過程に塗装・乾燥工程がありますが、従来はこの工程を外注していました。しかし、担い手の高齢化により外注することが難しくなっていったそうです。そこで、新たな挑戦として自社で塗装・乾燥工程を行える工場と新塗装ブースを約5億円かけて設置しました。このブースはHRS(ヒートリカバリーシステム)といって、メーカー調べによると、CO2排出を従来から45%も削減できる優れたシステムです。
しかし、環境にも従業員にも配慮したこの大型のシステム導入に反対の人も半分くらいいたそうです。「莫大な予算をかけてまでやる必要があるのか」という従業員の方の声を耳にした社長は、内製化の必要性に加え、環境配慮への必要性を従業員一人一人に丁寧にお話しして理解を得て、最終的にこのHRSの導入に至ったそうです。
さらに、HRSの運用改善を進め、余力を作ることで、縮小する塗装外注先の代替機能として同業他社への営業も行い、塗装・乾燥工程の受注にも対応することで、札幌市内のトラック塗装サプライチェーン全体でCO2の排出を削減していきたいと今後の展望もお話いただきました。
このほか、モバイルトイレも手掛けているというお話を聞いて、SDGsにつながる様々な事業を手掛けており、その事業の幅に広がりを感じました。「当社で塗ったものは環境に配慮しながら塗れたという実績になるので環境負荷が減る。自社だけでなく同業他社も助けていきたい。風当たり強く見られがちな製造業も、ちゃんとやってるんだぞという風に見えたらいいな」という堀田社長の意気込みに心打たれました。札幌ボデー工業の今後の展開に目が離せません。
札幌ボデー工業流のコミュニケーション

意欲的な取組を進める札幌ボデー工業を支えているのは、従業員の方々であり、従業員の方が過ごす職場環境も気になるところ。
そこで、まず食堂を案内してもらいました。食堂は7年ほど前にリニューアルしたそうで、とても綺麗で、快適なお昼時間を過ごしていることが想像できます。お米とお味噌汁のおかわりは無料で提供しているようで、日々体を動かして働いている従業員の方にとっては非常に嬉しい配慮だと感じました。
次に、実際に従業員の方が働いているところを案内いただきました。
堀田社長が従業員の方に声をかけると皆さん笑顔でお話ししてくださり、堀田社長が「こんな綺麗な溶接はなかなか難しいんです。センスがあるんですよ。」とお話しすると、「毎日やればできますよ」と従業員の方が堀田社長の言葉に少し恥ずかしがりながら答えていたところをみて、堀田社長が働いている一人一人のキャラクターを理解し、コミュニケーションを積極的にとっている、風通しの良い会社だと感じました。
「技術者」と聞くと、工業系の専門知識が必要で、未経験者には縁のない職業と思われがちですが、未経験ではじめた若い従業員の方もいらっしゃいました。その方は、文系の大学ご出身で、製造業への就職は考えたことがなかったが、救急車を作っているおもしろそうな会社だと思って就職したそうです。就職してから技術を学び、前述したモバイルトイレを、たった1年間で先輩職員と二人で手掛けたことにはとても驚きました。
先輩方と和気あいあいと働いて技術を磨いており、「飲み会など先輩方が酔っ払っている姿を見るのがおもしろいし、楽しい」と笑ってお話ししてくれました。
また、工場内には、100㎏の重さも簡単に持ち上げ、自由に移動させられる設備も導入されていました。女性や高齢の従業員でも働きやすい環境が整備されており、実際に女性や高齢の技術者の方が活躍されている姿も見ることが出来ました。
~取材を通じて~
札幌ボデー工業のみなさんの働いているところを見学させていただき、私は率直に「かっこいい」と思いました。大きなトラックを目の前に黙々とひたむきに、真剣な眼差しで作業を進め、1人目の手でつくったものが場所を移動し、2人目の手につながり、みんなの手から手へ渡り、最後にピカピカのいつも道路を走っている車ができるのだと、「製造業の当たり前」に、素直に感動しました。
私たち大学生の多くが、「製造業は、大変そうで、黙々と作業する」というイメージを抱いているのではないでしょうか。もちろん、私もその一人でした。しかし、今回の取材を通じて、札幌ボデー工業は、北海道を製造業で盛り上げたいという志と誇りをもち、モノづくりを通じて、ヒトを助けることのできる北海道を代表する未来のある企業であると感じ、当初抱いていたイメージが180度変わりました。
「仕事がきつそうで、固そうな職人さんがいそうで上下関係が厳しい」、「仕事を楽しめているのか、休日はしっかりあるのか」、これは取材前に私が製造業という業種に抱いていたイメージです。今回の取材で堀田社長のお話を聞いて、いかに私が製造業という業種に偏ったイメージを持っていたのかを思い知らされました。私と同じく偏ったイメージを製造業に抱いている人も多いかと思います。

青いつなぎを着てテキパキ働いている札幌ボデー工業のみなさんは、とてもかっこよく見えました。その背景には、身体に負担をかけすぎずに効率よく仕事ができる環境を意識した機械や設備の配置、私たちと同世代の従業員の方と、ベテランの方が仲良さそうに話しをしているコミュニケーションの良さ、70代後半でも楽しそうに働いている社風があるのではないかと感じています。
様々な面で厳しい業界だからこそ、設備導入や働きやすさをしっかりと考えていて、それが社風にも表れているものと思います。
また、札幌ボデー工業は、環境に配慮した新しいシステムの導入を通じて今後の経営を見据えています。必要性のあるシステムを導入し、新しくレベルアップしていくという企業の方向性も今回の取材で感じ取ることができました。こうした点が、私の製造業に対するイメージを変えた要因でもあると感じています。
一方で、採用活動の難しさも感じました。特に、私たち大学生にとっては、長く働ける、会社が潰れないという安心感はとても魅力的な要素であると思います。そのためにも、今回私たちが感じたように、一人一人の製造業のイメージを変えていくことが、製造業における採用活動において何よりも必要だと感じています。今回の取材を通じて、働きやすい職場環境で、持続的な事業活動に向けて新しくレベルアップしていく札幌ボデー工業の魅力が1人でも多くの学生に伝わって欲しいと思っています。